あした
もしも明日
私たちが何もかもを失くして
ただの心しか持たないやせた猫になっても
もしも明日
あなたのため何の得もなくても
言えるならその時 愛を聞かせて
みなさん,こんにちは。橘右近です。(←この始まりパターン化してますね)
もちろんこの名前はPN。右近の橘とか左近の桜とか聞いた事あるでしょ。
本名は桜葉あかり。23歳。
職業は調香師。香水作るのが主な仕事ですが,香料の研究とかももちろんやっています。
職場に女の人がほかにいないのが悩みの種(化粧ができないから入ってもすぐやめちゃうの)
とあるミステリーサークルの会員で,毎月1回どっかの喫茶店に集まってうだうだ言い合ってます。
このサークルには毎月企画原稿というものがありまして,お題にそったミステリーを1本書かないといけません。
さて,今月のお題は?
「私の好きな名探偵」
また,そんな難しいお題を・・・。
名探偵なんてね,新本格作品の山に石投げれば当たるんだよ。いまさらナニを書けと!?
だいたいね,ワタシにとって名探偵なんて1人しかいないもの(*..)
ポッ。
説明するまでもないことかもしれないけど,念のため。
保地笙悟。25歳。
PNはぽち。
職業はあたしとおんなじ化粧品会社の有能な営業マン。
純和風の男前で,性格は意外に熱血。知らない人からは冷たく見えるらしいけど。
営業3課ではマダムキラーで通ってるらしい。
一緒にとあるミステリーサークルに参加してるあたしの同居人。
そうだね,今日は笙悟と始めて会ったときの話でもしようか?
あれは今から3年くらい前のこと。
あたしが新作コンペ(商品化する香水を決めるの)のために資料室にこもってたとき,運命の出会い(←大げさ)はやって来た。
自慢じゃないけど,あたしははっきり言って背が低い。
150センチそこそこっていうのはお世辞にも高いとは言えないよね。
困るのが高いところのものを取ったりするとき。
うちの会社の資料室には脚立ってものは置いてない。
少ないスペースに資料を詰め込んであるから仕方ないんだけど。
あたしが見たい資料は棚の一番上にあって確実に届かない。
倉庫に脚立を取りに行くのも面倒だし・・・。
しょうがないからよじ登って取ろうかな? って思ったときだった。
後ろからひょい,と手が伸びてあたしの見たい資料を引っ張り出した。
「これ?」
和風の男前がぶっちょう面であたしに資料を手渡した。
「ありがと」
言いながらあたしは名札に目を走らせる。
営業3課 保地。ふ〜ん。これがウワサの源氏の君なんだ。
社内の女どもの間でイチオシだけあって顔はいいよね,確かに。
エゴイスト・プラチナムなんてつけて,キザな男。
このタバコのニオイはジョーカーかな? ますますキザ。
↑の理由であたしの彼に対する第一印象ははっきりいってあまりよろしくないのでした。
でも,制作意欲は掻き立てられたから,モデルにして1作作ってみようかな。
トップノートはフレッシュ,ミドルはウッディ系かな?
ちょうどタロットシリーズ,「No.] 運命の輪」にいいかも。
なんて,下らないことを考えてたとき,非常ベルが鳴り響いた。
いわゆる火災報知機ってやつ。
防火訓練なんて聞いてないわよ。
『第2資料室において火災が発生しました。直ちに避難してください。くりかえします・・・』
今あたしたちが居るのが第1資料室。第2資料室は・・・
真下だよ。
なんで,火気のない所で火災発生するの!?
どこでもそうだと思うけど,資料室は火気厳禁よ。
とうぜん,あたしは避難・・・したわけじゃなかった。
もちろん,現場を見に行きましたとも。
好奇心,猫を殺す?
ほっといて。あたしがここで死んだところで悲しむ人がいるわけじゃないし。
ちなみに第2資料室っていうのは,貴重な資料(産業スパイとかに入りこまれるとエライことに)資料を置いてある部屋。他には商品化した製品の見本とか,香料,畑違いだけどお香(三角のや線香タイプのやつ),アロマオイルなんかも置いてある。
なかなか結構な匂いの部屋であたしはできることならこの部屋には入りたくない。
当然出入りは厳重で,部屋の前室には守衛が居て名前や時間,理由なんかを控えてる。
あたしが第2資料室についたときには火はあらかた消しとめられてた。
燃えてたのは紙ベースの資料。一部が灰になったくらいでほとんど無事。
守衛さんの奮戦によるんだけど,放火された失点があるからプラスマイナスゼロね。
え? 断言したって?
当たり前じゃない。資料室は紙の山なんだよ。湿気と火気にはとんでもなく気を使ってる部屋で自然発火や失火なんてあるわけない。
人間が入って放火しないと小火であれ起こるはずない。
部屋には紙の焼けるニオイとほかの香料の匂いが入り混じってスゴイ匂いがしてる。。
・・・?
微かに別の匂いもしてる。甘いニオイ。なんだ?
「放火だな」
背後から,低い声がした。振り返ると保地氏が立っている。
「あら,いたの?」
第1印象が良くなかったから,あたしの態度もセリフもそっけない。
「好奇心,猫を殺すって言うわよ」
「人のことが言えんのか?」
イタイところを突いてくれる。
「なんで放火だと?」
他には考えられないことだけど,念のため,聞いてみた。
「資料室で失火や自然発火が起こるわけないだろ」
そんなことも解らないのか,って顔で応えてくれる。ちょっと,ムカッ。
「ふ〜ん,まんざら馬鹿でもないんだ」
し返しとばかりにあたしも大上段から言ってやる。
めちゃくちゃ険悪だわ。あ〜あ(溜息)
そして,警察がやって来た。
ワタシ,お巡りさんと相性悪いのよね・・・
まぁね,フォルクスワーゲン・Type1ビートルが一般道走ってたら目だって止められやすいのはしょうがないんだけどさ。
だからって,付けてるシートベルト付けてないって言うことないんじゃない!?
ってことが何度かあってから警察は大っ嫌い。
・・・鳥頭のワタクシ,そろそろ思い出すのが疲れてきました。
発覚したことを箇条書きにしてみましょう。
1
出火前に第2資料室に入ったのは30分前に過去のコンペの資料を見に来た第3研究室(うちだよ)室長,天木氏のみ。
2
第2資料室は常に鍵を掛けており,出火当時,資料室内部には誰もいなかった。
3
あたしが嗅いだ甘いニオイはサンダルウッドの匂い。調香師の鼻を甘く見ては行けません。
4
犯人は天木室長。動機は去年のコンペで盗作したとのこと。証拠隠滅のつもりだったらしい。(底浅過ぎ・・・)
・・・って,おい。
犯人バラしてどうするよ,あたし(。。;)
\(゜o゜#;アホカッ!
仕方がない。こうしましょう。
問題です。
天木氏は密室状態の部屋の中でどうやって,その場におらずして火をつけたのでしょう?
今回はかなり簡単かも。
ちなみに,サンダルウッドは白檀ともいいます。インドのお香なんかに良くある匂いです。
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