第2回 多岐川恭『変人島風物詩』

 
 「孤島もの」は本格ファンにとって、「雪の山荘もの」と同じくらいワクワクする設定だろう。クリスティー『そして誰もいなくなった』、江戸川乱歩『孤島の鬼』、横溝正史『獄門島』から綾辻行人『十角館の殺人』、有栖川有栖『孤島パズル』まで、「孤島もの」にはミステリの傑作といえるものが多い。「孤島」という舞台は、ミステリ作家の意欲を沸き立たせる舞台なのかも知れない。ここ最近では、「20世紀最後の新本格派」霧舎巧が『カレイドスコープ島』で「孤島もの」に挑戦している。

 今回紹介するのは多岐川恭の『変人島風物詩』である。桃源社・ポピュラーブックスの折り返しに書かれている作者の言葉を引用する。

 これは犯人当てゲームをめざした小説で、私としては初めてといって言い試みだけに、だいぶ難産した。矛盾が出てきたり、犯人がたやすく割れてしまうとすれば、私の無能の致すところで、やむを得ないが、フェア・プレイだけは、できるだけ努力したつもりである。

 ではどんなストーリーなのか。

 舞台は瀬戸内海に浮かぶ無数の小島の一つ、米島。もっとも、住人が変人ばかりなため、対岸の住民からは「変人島」と呼ばれている。
 ページをめくって最初に出てくるのは変人島の略図。最初の章で変人島の地誌の説明がなされる。
 次の章で変人第一号の地主とその家族、変人第二号の洋画家と妻とモデル、変人第三号の元ピアニストとその母親、変人第四号の老人と内妻、変人第五号の看護婦兼家政婦と少年、変人第六号の作家と情婦、と登場人物の説明。
 次の章でようやく自称まとも、変人第六号の秘書である主人公の自己紹介。
 一癖も二癖もありそうな変人達ばかりだが、それはそれで平和に暮らしていた彼らであったが、ある日、変人第一号の地主が殺される。そして続く連続殺人……。

 作者の言葉通り、犯人当てを主眼とした小説である。事件のデータは全て提示されており、そして論理的に犯人は暴かれた。作者の試みは成功したかに見える。ところがこの小説は、「論理」の部分よりも登場人物の人間関係の方が面白いのだ。他の作品に比べゲームに撤しようとしているが、それでも筆がのっているのは複雑な人間関係の部分というのは、ある意味皮肉な結果である。そして、その部分がこの小説をより面白くしているというのだから。

 ではこの小説、「論理」の部分はつまらないのか。そんなことはない。実にスマートな仕上がりである。消去法を使えば、きちんと犯人は目の前に現れてくる。それでもあっと驚かせるのは作者の腕だろう。最初の事件は密室だが、こんな簡単なトリックなのかと思うだろう。トリックは簡単であるほど鮮やかである。そして、それをさりげなく使うのが多岐川恭である。

 多岐川恭は様々なジャンルのミステリを書いている。本格推理の分野でもこのような傑作を書いているのだ。ところがこの小説、現在は絶版である。いや、文庫落ちしたという話も聞いたことがない。昭和30〜40年代の作家は推理小説ブームのために多作を要求され、数多くの作品を残したためか、逆にほとんどの作品が絶版になってしまった。これは推理小説ブームの弊害といえよう。現在は復刻ブームであるが、それでも拾い上げられない作品は数多くある。読みたいときに本はなしとはこのことだろうか。

 

 

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